グーデリアン物語0-2
Bea-Kid's グーデリアン物語
《エピソード0》
「青い闘神物語」
PHASE2


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「14歳!?」
 体中を包帯巻きにされた…頭の虎耳を隠すカモフラージュも兼ねた手当てだった…フェ
ザーがこくりとうなずく。
 自宅のテーブルの向かい側で、ティトーはスープをすくったスプーンを持った手を硬直
させて、仰天した。
 ティトーの父、青い闘神・モーリスと、母の白い兎・カイヤも、やはり驚いていた。
「年下…。3つは上だと思ってたのに」
「って事は、野風、あんた俺より年上(うえ)か?」
「15だよ。あと半年で16になる」
「俺、老け面かな?」
「身体が大きいから、そう見えただけよ」
 カイヤがフェザーのスープ皿に、おかわりを注いだ。
「闘いぶりも子供らしないようだからな。その傷を見る限りは」
 モーリスがあごひげをなでながら、穏和な声音で言った。
「理由とか、訊きませんね?」
 柔和そうな大人を、フェザーは怪訝(けげん)な顔で見た。
 実のところ、この疑問は、ティトーに対しても投げたかったモノであった。この穏やか
な一家は、普通なら厄介に思うであろう訪問者を、随分と丁重に扱ってくれている。
 自分の存在を、どういった訳か卑下しているフェザーには、この優しさの居心地が、至
極悪かった。色々と詮索してくれた方が気が楽なように思える。
「話したいなら、話したら良い。
 …猫族の習性でね、私達は、詮索や干渉が得意ではないんだ。することも、されること
も苦手なんだよ」
 猫族が他の部族…人間族も含めて…と共生できるのは、この「習性」のおかげだろう。
 一定の距離を置いたくことから生ずる「優しさ」を、彼らは持っている。
 だが、それは時として残酷なものだ。
 今のフェザーのように、つらい境遇にある者にとっては、厳しさでも良いから、距離の
ない接触が欲しい。
「親を殺された。仇を討った。その仇が、族長の息子だった。族長が『せがれの仇』とし
て俺を追った。
 五人までは、覚えている。あと何人殺したが、どうやってここまで逃げてこれたか、判
らない」
 フェザーは、一息に言った。
 モーリスとカイヤは大きくうなずいた。
 まるで自分の息子か親族が仇討ちを成功させたような、満足そうな笑みを浮かべている。
 ただ。
 ティトーは不満顔をしていた。
「仇討ちの仇討ちは御法度だ。
 往く雲は、悪くない。往く雲の部族の長(おさ)が、獣主・カザリーヌ様に逆らってい
るのが悪い」
「権力(ちから)のあるヤツは、何しても構わない。これが虎族の習性だ。
 族長の息子は、その辺の農夫を殺しても構わない。でも、農夫のせがれが族長の息子を
殺すのは、『大罪』なのさ」
 歯噛みの音が、小さなダイニングに響いた。
「それで…」
 柔らかな微笑を浮かべたカイヤが、やはり柔らかな口調でたずねる。
「あなたは、これからどうするつもりなの? これからもずっと、逃げて回るの?」
「逃げて、闘います。追われる限り、闘い続けます」
 強い口調でフェザーは答えた。
「それならば先ず、けがを治し、体調を万全に整えることだな。
 それまでは、君に部屋を貸そう…ティトーと同じ部屋になるが、ね」
 モーリスはゆっくり立ち上がると、右の脚を引きずりながら、フェザーの肩を抱いた。
 彼とティトーは笑みを顔に満たした。
 
「往く雲が持つと杖みたいに短く見えるけど、結構長いんだなぁ、この槍」
 フェザーの「短槍」は、立てると穂先がティトーの鼻の頭まで届く。
「フェザーでいいよ。あんた…野風のが年上だから」
 フェザーはそれを小枝のように振り回しているが、実は柄の中には鉄の芯が入っている
ので、外見よりもずっと重い。
 彼はそれで、
『身体が鈍るといけないから』 
と、毎日素振りをしている。
 そしてその様子を、ティトーは毎日眺めていた。
「敬意を表して、通り名で呼ぶことにする。君は僕よりもずっと強い。少なくとも、自分
の行く末を自分で切り開いている。これは僕にはできない事だ」
「俺にだって、野風みたいに良い家族や親族や…部族そのものが…いたら、逃げることも
闘うことも、選ばなかった」
「良い家族だったから、仇討ちをしたんだろう?」
 槍が、止まった。
 フェザーは、悲しそうな嬉しそうな笑顔で応じた。
 
 その日、風が生臭かった。
 ティトーの尖った耳が、ヒクリと動いた。
「なんか、聞こえたか?」
 包帯の下のフェザーの耳は、何の異音も捕らえていない。
「気がした」
 そうは言いながら、彼は両耳で360度上下左右の風を聴いた。 
「悲鳴。
 人のモノじゃない。
 酷く『人工的』な、生き物の鳴き声。
 助けを呼んでいる、咆吼」
「抽象的だな。詩人に成れるぜ」
 フェザーは包帯を取った。
 咬み千切られ、引き裂かれて、わずかに残った耳たぶで、ティトーの言う「悲鳴」を聞
こうとした。
 努力は、いらなかった。
 ハッキリとした悲鳴が聞こえた。
 ただ、それはティトーが聞いた「抽象的」なやつではなく、家畜の断末魔と、人の叫び
声だった。
「毛玉牛(モール・マール)だ! 人は…?」
「今日のマール番は…雨上がりさんのトコのリューイだっ!」
 フェザーは槍を担いで、悲鳴の方向へ駆け出した。
 ティトーは愛用の弓矢を取りに、自分の部屋へ駆け込んだ。
 一足遅れたティトーが、悲鳴の発信源に付いた時、そこには槍を構えたままどうするこ
ともできずにいるフェザーと、グロテスクな肉の塊が居た。


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