グーデリアン物語0-3
Bea-Kid's グーデリアン物語
《エピソード0》
「青い闘神物語」
PHASE3


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 見たことのないモノ、だった。
 動いているところを見ると、確かに生き物なのだろう。しかし、定まった形というのを 持ち合わせていないようだ。
 あちらこちらが牙を持つ口のようにパックリと開き、あちらこちらに目のようなギョロ リとしたものが付いていて、上にも下にも右にも左にも、脚とも腕ともつかない突起が出 たり引っ込んだりしている。
 口も、目も、脚も、腕も、人の物のようにも見えるし、獣や鳥の物のようにも見える。
 あちらこちらに開いていた口の内、3つは閉じている。
 2つには毛玉牛の死体が、もう一つには牧童の少年がくわえられていた。
 『雨上がりさんトコのリューイ』は、まだ生きていた。噛み付かれた場所が、脚だった のが幸いし、気を失ってはいるものの、息をしている。
 あちらこちらに付いている目の内、いくつかは逃げまどう毛玉牛を追いかけ、別のいく つかは、遠巻きにそれを見ている武装の整わない猫族達を見、別の一つがフェザーを睨み 付けていた。
 脚とも腕ともつかないものの何本かは、新たな獲物である毛玉牛を捕らえようとうごめ き、闘う気だけはある猫族を威嚇し、身構えるフェザーに攻撃を仕掛けようとしている。
 もぞり、のそりとした動きだが、振り下ろされた腕らしきものの力は、身をかわしたフ ェザーの背後にあった岩を、粉々に粉砕するほどの、そして彼が着地を失敗するほどの、 強さだった。
「転がって、伏せてろ!」
 ティトーは矢を射りながら叫んだ。
 短いが威力ある矢は、その肉の塊の目らしき物を、続けざまに3つ、射抜いた。
 肉の塊が咆(な)いた。大きく、もの悲しい叫びを上げた。
 脚らしき物、腕らしき物、の動きがせわしなくなった。
 辺り構わず叩き付け、踏み付け、暴れ回る。大きく口を開き、泣き叫ぶ。
 毛玉牛の死骸と、気絶したリューイは、悲鳴をあげた口からこぼれ落ちた。
 フェザーは暴れ回る肉の塊の手だか足だかの間を縫って12,3歳の牧童を救い出すと、 全速力で子供をその親の元へ届け、再び全速力で戦場へ駆け戻った。
 肉の塊の攻撃目標は、己を傷付けた小さな射手一つに絞られていた。
 野風・ティトーは、その通り名の示すような素早さで、攻撃をかわしつつ、矢を射続け た。狙いは、全て「目」だった。
 全部が当たった訳ではないが、目のように思われる物の8割方は、機能を失ったと思わ れる。…それが本当に「目」で、それで本当に物を見ているのならば、だが。
「野風! コイツは一体!?」
「『出来損ない』っていう化け物だ。
 大昔、レイラの民の魔術師が、奴隷する生き物をを創り出そうとして、失敗したのが少 しだけ生き残って、少しずつ増えてる」
「詳しいなっ!」
「化け物や戦いの知識は、やたらと詰め込まれたからっ。だけど、こんなのを見るのは初 めてだし、本物かどうかも判らない!」
 どうやら骨の入っているらしい、腕のような物、脚のような物の攻撃をさけながら、少 年達は必死で「コイツを倒す方法」を考えていた。
「弱点、あるかな!?」
「真っ当な生き物なら、頸、眉間、心臓!」
「真っ当な生き物なら、ね!」
 言い終わる前に、ティトーの顔色が変わった。
 背負った矢筒に伸ばした手が、何も掴んでくれなかったのだ。
 一瞬の隙。
 『出来損ない』は、それを見逃してくれなかった。
 あ、という間もなく、ティトーの小さな身体は『出来損ない』の腕に掴まれ、振り回さ れて地面に叩き付けられ、大きく開いた口の中に放り込まれた。
「野風!」
 フェザーは、手にした槍を、ほとんど無意識に投げていた。それを、ティトーが掴んだ のまでは、見えた。
 直後、巨大な口は閉ざされ、青毛猫族の少年戦士は醜悪な化け物に丸飲みにされていた。
「野風ぇぇぇ!」
 素手で『出来損ない』に殴りかかろうとしたフェザーを止めたのは、ティトーの父、モ ーリスだった。
 いうことをきかない足を引きずりつつ、息子を救出にきた父は、自分の胸元を掴んでい た。そこに…服の中にある、何かを握り締めているようだ。
 それが、光っている。
 輝いて、『出来損ない』を、その体内にいる幼い戦士を照らした。
 瞬間。
『出来損ない』が震えた。
 内側からの力が、そのグロテスクで哀れな生物を揺さぶっているのだ。
「ぉぉ」
 その雄叫びは、初め、小さくかすかに聞こえた。そして次第にそれは大きく強く響き始 めた。
「うおおおおぉぉぉ!!」
 『出来損ない』の身体の真中にあった、一番大きな目のような物が、膨れ上がった。
 水を入れすぎた氷枕のように破裂し、薄い血のようなものが吹き上った。
 その裂け目から、柔らかな光に包まれた、勇者が姿を現した。
 槍を高く突き上げたティトーの身体を、人の形をした光が抱きしめていた。

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