グーデリアン物語1-2

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「銀狐のポルカ」

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 『移動遊園地』の入り口は、陽が傾き始めるのを合図に開く。
 手動観覧車や駄菓子の露店は、開場早々に客が付く。敷地のほぼ中央に建てられた青天井の舞台にも、すぐに人だかりができた。
 逆に『居住区』は人気がほとんどなくなっていた。
 昼間、ここで駄眠をむさぼっていた連中のほとんどは『会場』の方へ出て行って、露店で飴細工をこしらえたり、観覧車を回したり(動力は「人力」である)、マリオネットを操ったり、シルクハットから鳩を飛ばしたり、もの悲しい旋律を奏でたり、陽気な歌を唄ったり、薄暗い小屋の中で水晶玉の前に座ってオカミさん達の愚痴を聞いてやったりしているからだ。
 『居住区』に残っているのは飯炊きの小母さんと馬子の小父さん、そして二人の少女だけだった。
その内の一人が、衣装馬車の中で大声をあげた。
「どうすれば顔に袈裟掛けのミミズ腫れなんか作れるって言うの!」
 グラマラスな銀毛の娘のわめき声に、小柄な青毛の少女は力なくうなだれてしまった。
「そもそも、野兎は自分の立場ってものが判ってないわよ。今の『紅薔薇移動遊園地』は、あなた達二人の仔猫で盛っているのよ! スタァの自覚を持って欲しいわ」
 〈水晶の薔薇〉という通名…悲しいかな、彼女をこの名で呼ぶ者はいないのだが…の狐族の娘ベラドンナは、捲くし立てながらドーランにパフを擦り付ける。
「スタァだなんて、あたしはそんな…」
 野兎・ケティ=モーリスは困惑顔に傷薬を刷り込みながら反論を試みるが、それは
「君とマーイはアイドルなの」
と、いう一言に敢えなく阻止された。
 ベラドンナはケティの顔に濃いドーランを塗ったくり、続ける。
「アイドルは、戻って来たブーメランを受取そこなって、顔面に一直線のミミズ腫れなんか作っちゃいけないの。『お笑い』じゃないんだからね!」
 傷軟膏の上に濃い肌色のペーストを乗せると、ベラドンナはふうっと息を吐いた。
「夜目、遠目、笠の内、と。大丈夫、目立たない。…でも照明係にランプを暗くしておくように言っとかないと」
「…ごめんなさい。迷惑ばかりかけて…」
 青い尖った耳が、力無く下を向く。
「元気がないな。大体、野兎ってば、ここのところおかしいぞ」
「ん…」
 ケティはこわばった微笑みを浮かべた。
「これから何をしようかって、悩んじゃって」 「いつもと同じでよし。…ほら、舞台ではちゃんと笑うのよ」
 ベラドンナはにっこり笑うと、ケティの背を軽く叩いた。


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