Bea-Kid'sグーデリアン物語。
《エピソード1》
〈ホーンデット山の封筐〉

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《これまでのお話》

偶然一緒に旅する事になったケティ、マーイ、ファルシオン。ロゼの『移動遊園地』に入り込んで、何とか飢死の危機は乗り切った。
 団員のアルバートが、襲い来た虎族を蹴散らすのを見て、ケティは彼に好意をよせる。
 虎族がケティを狙っている事に気付いたアルバートに問われ、ケティは父が虎族と闘った事、生死がわからない事を明かす。
 旅団がゴーストタウン紛いの町に付いた夜、熊族のザンがケティに「父親は生きている」と告げた。
 ケティが喜んだのも束の間、又しても虎族が一行を襲う。
 逃げた虎を街まで追って倒したアルバートの前に、ケティを人質にしたローガンが迫る。
 ローガンを倒したアルバートは深手を負うが、ケティの手当で一命を取り留めた。
 『移動遊園地』が大都市ダミヤにたどり着き、ケティが父と再会を果たした時、新たなる冒険が始まる。

1-1
「白猫と少年のタンゴ」

荷馬車の床下に頭を突っ込んでいたファルシオン=H=ノースは、視線の下の方に見慣れた細くて白いしっぽと白い靴下を見つけて声をかけた。
「マーイ、そこの工具箱から小さいハンマーを取ってくれないか?」
 『しっぽ』の先がヒコっと動いた。が、返事らしきものが返ってくる気配はまるでない。
 ファルシオンは頭を掻き、呆れ声で言い直した。
「春風さん、申し訳ないけれど、その工具箱の中から小さいハンマーを取り出して、僕に渡してくれませんか?」
「ええ、よろしくってよ」
 白毛猫族の春風・マーイは上品ぶった返事をすると、ファルシオンのお願いを聞いてやった。ふわふわの真綿髪の上で、尖った猫耳が嬉しそうにピンと立っている。
「ったく、ケティのお父さんに通名をつけてもらったのが、そんなに嬉しいかねっ」
 乱暴に釘を打ちながら、ファルシオンが聞こえよがしに言う。マーイは唇を尖らせた。
「とおぜんじゃないの。とおり名は大人になったしょおこなの。いいこと? これからもマーイのことは〈はるかぜ〉ってよぶのよ。そおじゃないと、へんじ、してあげないンだから!」
「はいはい…」
 ファルシオンは仕方なく返事をした。
 『自分に正直』な性格のマーイを不機嫌にさせないようにするには、とりあえず言う事を聞いてやるのが一番なのだ。

 幾台もの馬車が雑然と並ぶ広場。…ここは『聖なる湖』のほとり、『紅薔薇移動遊園地・ダミヤ市郊外特設会場』内『団員居住区』。夕方から開園予定の遊園地は、昼寝の鼻息だけが聞こえる静かな昼下がりを迎えていた。

 車軸の修理を終え、馬車の下から這い出た色白で華奢な少年は、亜麻色の髪や白いシャツにたっぷりと砂ボコリをかぶっていた。
 マーイは思い切り背伸びをして、彼の背中の砂を払いながら、訊ねた。
「ところでアンタ、ケティがどこにいったか、しらない? おちゃの時間なのに、どこにも見あたらないの」

 野兎・ケティ=モーリスは、マーイの大親友だ。何をするのも、何処へ行くのも、一緒でないと気が済まない。
 もっとも、4つ年下のマーイを「妹」のように思っているケティにしてみれば、これはほんの少し迷惑な「友情」なのだけれど。

「病院に、お父さんのお見舞いにでも行ってるんじゃないのかい?」
 ファルシオン自身もシャツを叩きながら答える。
 ケティとその父…青い闘神・モーリス…は、彼らの種族と敵対する『虎族』との抗争で、共々傷を負っていた。特に父親の方は重傷で、長期の入院が必要だった。
 医師から「父親に付き添う必要はない」と言われてしまったケティは、しかたなく見舞いと自身の治療を兼ねて、毎日病院通いをしていた。
「おみまいなら、あさのうちにいってきたもの。だいたいマーイにだまって一人でいっちゃうわけないもの」
 マーイは下唇を突き出す。
「アルバートさんのトコに…」
 ファルシオンは「彼女が一番居そうな所」を口にしかけて止めた。一人の狼族がこちらに近付いて来たのが見えたからだ。
 左腕に包帯を巻き付けた黒ずくめの狼族は、尖った耳を不機嫌そうに伏せ、言った。
「野兎なら、狩だ」
「うそぉ。だってゆみもやも馬車においてあるのよ」
 マーイが目を丸くした。〈放浪者〉という通名の黒毛狼族…アルバート=フェルンは、自分の右腕を軽く叩いて見せた。
 ケティは右腕に傷を負っている。治療のお蔭でフォークを持つのには不自由しなくなったが、弓を引く程の力はまだ出せないらしい。
「それじゃぁ何を使って狩をする気だろう?」
 ファルシオンの純粋な疑問に、アルバートはあからさまな不満声で応じた。
「俺の馬車からブーメランを盗って行った」
「あの、壁に掛けてあった大きいヤツですか? …てっきり装飾品だと思ってた」
「使えない道具は持たん主義だ」
「でもケティがぶうめらんをつかえるなんて、しらなかったもの」
 マーイが唇を尖らせた。…どうやら親友が「楽しそうな事」に自分を連れて行かなかった事が気に喰わないようだ。
「だから練習に出駆けたんだろう。右腕をかばう練習に」
アルバートは最後の一言をことさら不機嫌に言い放った。

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