Bea-Kid'sグーデリアン物語。《エピソード2》
<旅の仲間と前途多難>

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2-1
「水滸傳」

 獣人達の聖地『聖なる頂』を守るように囲む湖…獣人達が単に「湖」と呼び、人間族達は仮に「聖なる頂湖」と呼んでいる所…は、レストリア大陸西部の表面積の、実に1/10を占める広大な湖である。
 それは4本の川の終着であり、2本の川の起点でもある。
 この湖が、別名「神秘の湖」とも呼ばれている理由は、その天候変化の激しさにある。
 普段はさざなみすら立たないというのに、何の前触れもなく津波が起きてみたり、あるいは陽の照りつける夏の昼間に、急に湖面にだけ濃霧が立ちこめたりする。
 人間族の学者連中が学術調査を重ねているが、この法則性のない天候変化の原因は、まるでつかめない。
 獣人達は「お天気は獣主様のご機嫌で変わるのだ」と信じている。
 聖なる頂の中でレストリアの民を見守っている魔女・カザリーヌが、その行いの如何を見て、微笑み、怒り、悲しむから、湖に変化が起きるのだ、と。
 だから最近はお天気が悪い、と地元の黒毛狼族の老人が言う。
 よそ者(人間族)がはびこり、大地を傷つけ、獣の子等をないがしろにするのを見て、獣主・カザリーヌは怒り、悲しんでいるのだ、と…。
「大丈夫なんですか、そんな湖に船なんか出しても?」
 湖面をながめていたファルシオンが、ロープの補強作業にいそしむアルバートの顔色をうかがった。
その足元で、マーイがニカっと笑った。
「タコ助さん。これはふねじゃなくって、いかだっていうのりものなのよ」
「うるさいなぁ。それくらい解っているよ」
ファルシオンは眉をしかめてマーイをにらんだ。
「こいつで湖を横断しようというのではない。ただ、ヘリを伝って行くだけだ。それくらないら獣主様だって大目に見てくださる…だろう」
 アルバートの語尾がいつになくあやふやなので、ファルシオンは不安顔を一層青くした。

 昼下がりの陽光を、穏やかな湖面が跳ね返している。波は全くない。ただ、小さな帆を張った貧弱な筏のまわりにだけ、微かなしぶきが立っていた。
 小柄な5人と多くない荷物を運ぶには充分な「小ささ」の筏は、湖岸に広がる「白銀の森」で野営を張っていた狐族の商団を拝み倒して手にいれた中古品だった。
 代金は「紅薔薇移動遊園地のアイドル『青い歌姫』ことケティ=モーリスの美声3曲分」である。

「道のない土地を馬車で行くよりは楽だろうから、このルートにした。…乗り物酔いの激しいのが混じっているからな」
 そう言うと、アルバートはその「乗り物酔いの激しいの」に小さな油紙の包みを渡した。
「これは?」
「予備の弾丸だ。万一、雨なり波なりを被っても、火薬が湿気らない」
「あ、そうか。じゃあ銃ごと包んだ方がいいかな」
「油紙の中の引き金をどうやって引く?」
アルバートは実に冷静に、冷淡に、駆け出しガンマンに問いかける。
「そーだ、そーだぁ」
 マーイは実に騒がしく、陽気に、筍医者(筍は長じて「薮」となる)を莫迦にする。
 自称・発明家の卵は、下唇を突き出して頬を膨らませた。
「ふくれていないで、出発の準備をしておけ。野兎達が戻って来たら、すぐ筏を出す」
アルバートはあくまでも冷静に言った。

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