グーデリアン物語2-2

2-2
「青き猫と白き女狐」

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「一緒に? ベラも、あたし達と?」
 移動遊園地へ馬車を返しに…飛び出したケティを探すために、アルバートは無断でケティ達が自室として使っていた馬車を「借りた」のだそうだ…行く道すがら、ケティは目を見開いた。
「嫌?」
 手綱を操りながら、ベラドンナは可愛らしく小首を傾げた。
「そうじゃなくて…あたし達が抜けて、ベラのイリュージョン(注・大きな装置を使う手品。「人体切断」や「人間消滅」、「脱出マジック」等のこと)までなくなっちゃったら、出し物が…。団長ったらそんな許可を…」
「母さまには、話してないわよ」
しれっとした顔でベラドンナが言うので、ケティの瞳孔はますます小さくなる。
「だからこの馬車は、遊園地の近くまで持ってって、その辺の立木に結わえておくわ。母さまに見つかったら、私、連れ戻されちゃうもん」
「そういうのって『家出』って言わない?」
「そうとも言うわね」
 ベラドンナはけらけらっと笑った。
「呆れた親不孝者だ」
ケティがため息を吐くと、ベラドンナは今度はニヤっと笑って言う。

「野兎だって似たようなモンじゃないの。結局、おとうさまには何の連絡もなしで出発したんでしょ?」
「手紙を置いてきたよ、この馬車の中に」
 ケティはベラドンナの薄笑いをにらみ付けた。
 森の奥でこの馬車に乗り込んだとき、ケティの手紙は彼女が置いた場所にそのまま残されていた。
当然、それは父・モーリスに届いていない。
 連絡をしなかったのではなく、連絡が着かなかったのだ、とケティは思っていた。
「じゃ、誰かが馬車を見つけて、中の手紙に気付いてくれたら、ちゃんと届くわよ」
 銀色の狐は「我関せず」顔で言う。
「そういう問題じゃないよ」
 ケティは眉根をつり上げた。だが、眉尻の方は力なく下がっている。ベラドンナのさばさばした表情を見ていると、怒るのも莫伽らしくなってしまうのだ。
「でも、私がいないと、野兎が困ることになるのよ」
 ベラドンナは悪戯な笑みを浮かべた。
「あたしが困る? 何で?」
「ホーン何とか山へ行くための地図、あれ、私のモノだもの」
「ベラ…の?」
 ケティは痙攣のような目瞬きをした。しかしベラドンナはそんなことなど気にも止めない。
「だってとても芸術的な図版だから、母さまに頼み込んで、15の誕生日にもらったの。それを母さまったらすっかり忘れてるんですもの、おかしくって。…そんなことはどうでもいいけど…。で、あれは私の所有物で、私はあれを手放すつもりはまるでない。でも野兎はあれが必要。と、なれば、野兎は私ごと地図を持って行かなきゃならないワケよね」
 言いたいことを言いたいだけ言うと、銀狐はにっこりと笑った。
 屁理屈だった。
 単に、ベラドンナは家…彼女の場合は「旅団」だが…を出ることを正当化したいだけなのだ。
 だがその屁理屈を覆すだけの理屈が、ケティには思い付かない。
「参ったなぁ…」
『何を言っても聴聞いてくれないだろうし…』
ケティはすっかり諦め顔になって、何度目かのため息を吐いた。


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