グーデリアン物語3-3

3-3
「shelter」

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 マーイが、天を仰いで詠い出した。
 風が彼女の頭上で、猛烈に渦巻く。
 透明な渦が、土砂降りの水滴をはじき飛ばして行く。
『で〜きた。へへっ。猫族とくせい「天幕」のじゅつ。もお、雨がふろうが、やりがふろうがだいぢょうぶ♪』
 幼い術者は、満面に笑みをたたえると、その場にペタンと座り込んだ。
『はん日くらいはもつとおもうから。じゃぁ、おやすみなさぁぃ』
 そのまま、乾いた木の根を枕に、眠ってしまった。
『ちっ、ちょっと! あんた、よく寝ようって気になるわね!?』
 犬歯をむき出したベラドンナが、彼女の襟首をつかみ、揺する。
『服はびしょ濡れだし、ここはどこだか解らないし、おなかは減るし、寝てる暇なんかないのよっ!!』
 が…マーイは起きない。
 よだれを垂らし、幸せそうに薄ら笑って、揺すられるままに眠り続ける。
 大した神経だった。
 マーイだけではない。ベラも同様だ。
 起きることのない仔猫を、ひたすら揺さぶり続けている。
『大体、野兎や放浪者の行方だって知れないっていうのに!! あんた、自分の身内の安否が気にならないワケ?!』
『いかだ…二つに別れましたよね?』
 ファルシオンが、ぼそっと言う。マーイとは別の根に、静かに腰を下ろした。
『でも、それ以上にはバラけなかった…少なくとも、僕らの乗っていた方は』
『だから、何よ?』
『もしかしたらあのいかだ、帆を張ったりするために、小さいヤツを二つつなげたヤツだったんじゃないかなって』
『ニコイチだ、て言うの? だったら、何だっていうのよ?』
『ケティやアルバートさんの乗っていた方も、バラバラにはなってないんじゃないかな…って』
『…それで?』
『いや、だから、二人ともきっと無事だと思うんだけど』
『あんた、ホントにタコだわ』
 ベラドンナは…皆、すっかり忘れている彼女の通り名「水晶の薔薇」に似つかわしい…冷たく尖ったトゲにまみれた言葉を、ファルシオンの頭の上から浴びせた。
『この世の全ての沈没船の内、海の底で原形を留めていないのが、一体いくつあるっていう訳? どんな豪華客船でも真っ二つになったら沈没。バラバラになんかならなくっても、乗客もろとも沈んじゃうのよ』
『でもっ…僕たちはこうして無事なんだし』
『女子供は優先的に「救命ボート」に乗れるモノなの』
『救命…って?』
『私たちが助かったのは、荷物のお陰よ。衣類やら何やら、水に浮かぶ物がくくりつけてあったから、沈まなかった。でも、野兎たちの乗ってた方には、放浪者が趣味で集めてた武器が満載』
 まくし立て、がなり立て、わめき立てるだけ怒鳴り散らすと、ベラはその場にしゃがみ込んだ。
『今頃二人ともワニの餌よぉ』
 空腹の赤ん坊のように、彼女はギャアギャアと鳴き出した。


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