グーデリアン物語3-5

3-5
「onslaught」

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 遠雷が、湿った空気を振動させる。
『たっ、台風の目、ってこれのことかな…』
 ファルシオンは自分の肩を抱きかかえ、ガタガタと震えていた。
『マーイが寝ちゃったのは術の副作用だとして…、ベラさんはどうしたんだろう?』
 結果の原因が解らないと不安になるのが人間の性である。
 だから無理のある仮説を立ててでも、つじつまを合わせようとする。
『マーイがかけ損なった術が影響しているのかな?』
 そう思いたい。そう言うことにしておこう。
 無理矢理信じ込むと、ファルシオンは周囲をうかがった。
『二人が寝ている間、僕が二人を守らないと。僕は、男なんだし』
 木々の隙間から垣間見える「聖なる湖」の水面は、今だ大きく荒れている。
 高くうねった波頭は、人の背丈を優に越える。
 鉛色の空が、蒼白く光った。
 雷光が高波の頂点を打ち砕いた。
 間を置かずに、二つ目の雷撃が岸の岩場に落ちた。周りには、おあつらえ向きの高い糸杉が何本も有るのに。
『変だな?』
 三つ目は森の中に落ちた。近距離らしく、轟音と衝撃で、マーイの作った空気の天幕が激しく振動した。
 しかし、樹が裂けたり、倒れたりしたような音は、しない。
『普通の雷じゃない!』
 以前、これに似た雷を見た。
『ケティを狙っていた、虎族の下っ端のソーサラーが、味方に雷を落として…』
 屈強な虎族の戦士が、刹那で消し炭になった。
 ファルシオンは慌てて荷物をかき回し、小型の拳銃を取り出した。グリップが少し湿っているが、銃身は乾いている。
 ポケットの中の油紙の包みを破る。乾いた弾丸を、弾倉に詰める。
 まだ慣れない作業は、焦るほどに効率が落ちた。
 六連発リボルバーのシリンダーが満タンになるのに、二分以上かかった。
 本人には二十分にも思える手際の悪さだった。
 撃鉄を起こす。辺りを見回す。
 茂みが、ざわめいた。
 銃口を向け、標準を合わせる。
現れたのは、大柄な男だった。…すこぶる、人相が悪い。
 丸みのある大振りな耳が、頭の天辺に二つ並んでいる。黄地に黒い縞の入った尾が、長く、だらりと下がっている。
 上半身に巻き付けられた、不必要な鋲がびっしりと着いたガンベルトの二つのホルスターには、ショットガン並みの銃身を持つリボルバーが納められていたようだ。
 左の肩から袈裟に懸かっているのは、弾丸を詰めた帯らしい。
 太股にも何か…弾薬か、煙硝か、小型の爆発物か…を止めて置いた形跡がある。
 その全てが、爆ぜ散っていた。
 当然、その虎族の肉体も、正視できないくらいに、損傷している。
 血みどろで、硝煙臭いモノは、ぐらりと前のめりに倒れた。それも丁度、「天幕」の真上に、だ。
『うっ…うわぁぁぁぁぁっ!!』
 ファルシオンはバネにでもぶつかったみたいに、真後ろへ飛び退いた。
 瞬間、それは天空に吸い上げられた。
 天幕の外側に突如現れた、細く鋭い竜巻が、そいつを巻き上げたのだ。
『なっ、何? 一体、何がどうなってるんだよ?』
 天空に目を向けたファルシオンは、己の頭上に、白い物が無数に降り注いでくるのを見た。
『雹だっ』
 しかし小さな氷の粒は、天幕を成す空気の渦に弾き飛ばされた。
『「天幕」…だ。マーイが起きたら、お礼を言わないと…』
 吐きかけた安堵の息は、悲鳴へと瞬転した。
 人の頭ほどもある巨大な氷塊が、轟音を上げて落下してくる。
 薄い空気の層は、それを止めることができなかった。
 白い塊は、気を失って倒れ込む小心者の頭をかすめて地面に激突し、砕けた。



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