グーデリアン物語4-3

4-3
「日常」


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 昼下がり。
 木漏れ日が眩しい。
 昨日の嵐が嘘のように、空は青々と澄み渡っている。
 五人の「冒険者」達の目の前で、魚が焼けていた。
 香ばしい煙の向こうで、ベラドンナ嬢が不機嫌そうに腕組みをしている。
「今まで、何処にいたのよ?」
「別の岸に流されたって、何度も言っているじゃない」
 ケティはため息を吐きながら答えた。
「荷物は、どうしたのよ?」
「今頃、湖の底だろう」
 アルバートが普段通りに冷静な…しかし呆れきった…声音で答えた。
「イイじゃないですか、もう。みんな、無事だった訳だし」
 ファルシオンが引きつった笑いで割って入る。
「いいじゃないの、もう。おそいけど、お昼ごはんもたべられるわけだし」
 マーイが一番初めに火の通った魚をほおばりながら言う。
「良くないわよ。だいたい、ここがどこかだって分からないし、ここから先に進む交通手段だってバラバラだし!」
 筏は、確かにバラバラに粉砕されていて、使い物にならない。
「もう、筏はいらない…と、思う」
 自信なさそうな、ありそうな、奇妙な顔でケティがいうと、アルバートが、ぶっきらぼうに
「地図は?」
と、問う
 ベラは、やっと生乾きになりはじめた衣服やらなにやらの中から、古い地図を取り出した。
 狼族の戦士の指は、その地図のかなり下の方を示した。
 ダミヤから、聖なる湖のちょうど反対岸にあたる、茶色く塗られた場所である。
 ベラは再び腕組みした。
「森よ、ここは。地図では平原か砂漠みたいな色じゃないの」
「青の森…もう少し西側に描いてあるヤツ…がだな、かなり東のステンリー川近くまで広がった。この地図は、100年近く前の地形で描かれている。誤差もある」
「でもっ、ホーンデッド山は、まだ遙か南よっ」
 ベラが食い下がる
「歩けばいい」
 アルバートの冷静口調には、反論の隙がなかった。
 まだ何か言いたそうだったベラだが、あくまで冷静なアルバートへの口答えが、どうしても考え付かなくなり、しかたなく黙り込んだ。
「南のほうってさ、たしか、おおかみぞくのシュウラクが多いはずじゃないの? のりもののチョウタツ、そのへんでやったらいいのよ」
 二匹目の魚に手を出しつつ、マーイが普段通りのお気楽口調で言った。
「難しいぞ」
 当の狼族が、ぼそっと言う。
「『連中』は非社交的で、他種族、他部族を毛嫌いしている。交渉や取引が易々と成立する事は…まず、無い」
 小声だが、きっぱりとした言い切りだった。
「じゃ、アルバート…放浪者さんは、ずいぶん社交的な方、なんですね、これでも」
「ファル、語尾が気に入らんな」
 じろり。
 黒曜石のように輝く狼の瞳が、ひ弱な自称『発明家』をにらみ付ける。ファルシオンは食べかけの焼き魚を口にくわえたまま、引きつった笑顔を作った。
 これに割って入ったのはケティだった。
「金毛族となら、あたし達青毛猫族が『同盟』しているから、あたしが交渉役をやる」
 金毛狼族は、狼族の中では穏和な方で、無益な抗争はしない。したがって、他種族に対しても高圧的でなく、むしろ、弱者と見れば庇護(ひご)の対象にしてくれる。
 また、青毛猫族と金毛狼族との『同盟関係』は、ここ60年来、崩れていない。
 この一見軟弱なパーティーの代表として、愛らしい『青い歌姫』が懇願すれば、彼らは何かしら手助けしてくれるだろう。
「それから、黒毛族なら、放浪者が同族だから…」
 言い終わらない内に、アルバートがケティの言葉をさえぎるように言い捨てた。
「同族と、認めてもらえれば、な」
 直後、珍しい事が起こった。
 アルバートがため息…自己的で、しかもネガティブな…を漏らしたのだ。(他人の「無様」や「ドジ」に対する嘆息なら、しょっちゅう吐いている)
「俺は群れた事がない。狼族との『友好的な接し方』を知らん」
 一瞬の気まずい沈黙が、五人の周囲を取り巻いた…が、こういう時には(と言うか、こういう時にだけ、と言うか…)、春風・マーイの脳天気が役立つ。
「なんとかなるよぉ。マーイがおどって見せるとか、ベラドンナが手品やって見せるとかケティが歌うとかすればいいじゃない。きっと、カンドウのあまり、なみだして、力をかしてくれるわ」


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