Bea-Kid'sグーデリアン物語。
《エピソード5》
<青の森・黒き森>
5-2
「事実」


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 一方。
 目の前で起こった「真実」に驚愕し、蒼白となった虎族の戦士は、一瞬、金縛りのように硬直した。
 その「瞬間」は、アルバートがテントへ飛び込み、中から矢を射掛けるのに充分な長さだった。
 しかし、矢は当たらなかった。
 一矢目は、ガーシュインが投げつけた…あるいは捨てた…長剣の柄に弾かれた。
 二矢目は、竿立ちになった赤毛馬の胴の下を抜けていった。
 三矢目は、騎手の背をかすめて木の幹に突き刺さった。
 四矢目は…放たれなかった。
 ケティもブーメランを振り上げていた腕を降ろした。
「恐ろしく速い。馬もだが、あの男の引き際が、だ。執拗(しつよう)に速い」
 テントから出つつアルバートは息を吐いた。
「君の発言、矛盾していない?」
 ケティも息を吐き出した。
 彼女を抱いていた優しい光は、すでに消えている。
「勝てないと思って遁走(とんそう)したのではない。次の機会を狙って退却したんだ。執拗だろう?」
 弓と矢筒を手に、アルバートは不機嫌そのものの声で言った。
 不機嫌の原因は、自分にあった。
 ガーシュインを倒すのに、武器が要ると思ってしまった事。
 武器を使っても結局、取り逃がしてしまった事。
 そのどちらもが口惜しい。
「あ、あのぉ」
 緊張感を一気に崩してくれたのは、先ほどまで冷静だったファルシオンの、一転して不安丸出しに変じた声音だった。
「もう、そっちに行っても大丈夫、ですよね、僕たち? あいつが戻ってくるとか、そういう事、ないですよね?」
「平気だよ、取り合えず今夜は」
 ケティが微笑むと、アルバートはまだ不機嫌の消えぬ声で、
「夜襲は嫌いだそうだからな」
と、付け足した。
 不機嫌なのはアルバートだけではない。
「じょうだんじゃないわよぉ。この天才しゃーまんさまがカツヤクできないセントウなんて!!」
 マーイが口を尖らせている。
「じゃあ、少し活躍していただこうかしら」
 微笑みを苦笑いに替え、ケティは森の奥を指した。
「殺された虎族達を葬りたいんだ。地おこしの術と岩堀りの術で、墓穴を掘ってくれないかな?」
「つまんないシゴト」
 そう言いながら、マーイはファルシオンの袖を引っ張って、ケティの指した方へ歩き出した。
「なんで、僕が墓穴掘りの手伝いなんか!?」
「女の子をひとりで、『もるぐ(死体置場)』に行かせるつもりなの?」
 渋々従う二人を見送りながら、ケティがボツリと言った。
「帰るなら、今の内だよ」
 言われたのは、ベラドンナである。
 さらにアルバートが追い打ちをかけた。
「ホーンテッド山への道は、もう地図を見んでも判る。地図の所有権を主張して俺達と同行しているに過ぎないなら、もうお前は俺達には必要ない存在だ」
 厳しい口調だった。
 狐族の少女は、凄まじい戦闘に巻き込まれ、しかもそれに全く手出しのできない不甲斐なさに、声を出すこともできないでいた。
 わずかに震えてもいた。
 恐怖が、そこにあった。
「冗談じゃないわよ!」
 水晶の薔薇が、声を震わせた。
「こんな所まで来て、どうやって、どこへ帰るのよ!? 大体、これだけ怖い思いしされられて…虎族のヤツらに落とし前付けてもらわなきゃ、気が済まないわよ!」
 泣いていた。
 移動遊園地一座のお嬢様として育ったベラは、初めて「今までの自分」が持っていたプライドには、まるで価値がないということに気付いた。
 五人目の冒険者が、たった今、新たな自分を造る決心をした。

 星が、森の中の「歪み」を照らしていた。
「楽しいなぁ、ガーシュイン」
 その「歪み」の中で、ジュグラーは頬の肉を震わせて笑った。
「そうだろう? 我が部族一の戦士が、たった二人のガキに負けて逃げて来た。だから戦(いくさ)は面白い」
「負けてなど、いません!」
 ガーシュインは頬の肉を震わせて怒った。
『俺は負けてなどいない。あの莫迦共(ばかども)が先走りしたのがいけないのだ。俺が負けたのではない!』
 部族一の戦士は、怒り狂っていた。
「強情なことだ。…まあ、それがお前の長所よ」
 彼らの隠れ家の一番深層の扉を、ジュグラーが開けた。
「敗軍の将に、良い物を見せてやろう」
 黄金の放つ眩しい光が、一気にあふれ出た。
 ジュグラーの長い爪が指す先には、黄金の像があった。5mを越える高さの、美しい女性の立像だった。

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