天珠がチベットから中国へ広まると、
元々の素朴な線画だけでなく、
新しい複雑な文様のものが作られるようになりました。弁才天は仏教の守護神である天部の1つで、
ヒンドゥー教の女神であるサラスヴァティー(Sarasvatī)が、
仏教に取り込まれたものです。
元々のサラスヴァティは4臂で、
内2本の腕でヴィーナという琵琶に似た弦楽器を、
残り2本にはそれぞれお数珠と聖典「ヴェーダ」を持つ姿で描かれました。
弁才天となってからは、8臂あるいは2臂で描かれます。
8臂の場合、鉾、三古杵、弓、輪、鈎(鉤)、矢、羂索(投縄)、棒etc.
といった「武器」を持った勇ましい姿で描かれます。
修行者や信者を守る天部としての側面が強調されているのでしょう。
2臂の場合は琵琶を持ち、蓮の花に座した姿で描かれることが多いようです。
サラスヴァティはサンスクリット語で「水(湖)を持つ者」と言う意味を持つ名前です。
女神サラスヴァティは元々サラスヴァティ川(現在は砂漠に干上ってしまっています)の神格化でした。
川や水の流れから転じて、「流れるもの」総てを司る女神とされたのです。
流れるものとは「言葉」や「音」であり、
弁舌(喋り言葉)、文字(書き言葉)や詩歌、音楽、それらの知識と学問が彼女の守護の元にあるのです。
このように弁才天はもともと「辯(言葉)」の「才」の天部でしたが、
日本にもたらされた後に、
「辯」と音が同じ「辨(善し悪しを別ける・弁える)」に、
「才」がやはり音が同じ「財」に置き換えられて
「財宝神」の神格が与えられるようになりました。
中世以降の日本では、
弁才天は仏教の天部(あるいは「妙音菩薩」)としてだけでなく、
神道の海神である「市杵島姫命」や土着信仰の農業・穀物神である「宇賀神」と習合されて、
神社の祭神として祀られることが多くなりました。
こうして弁才天は
「水神」「言葉・文字の神」「詩・歌の神」「音楽の神」「芸能の神」「学問の神」「農業・穀物神」「財神」
という様々な側面を持つオールマイティな女神として、多くの信仰を得ることとなったのです。